音葉 言音は虚構の魔人である。 神に出会えば神に阿り魔法に出会えば魔法に阿る。 信念も情熱も思想も関係ない。その都度流れやすい方向に流れるだけ。 より声を大きく出来る方に。より声が強く響く方に。 より。より。より。 「私がこんなになったのにはなにか理由があるはずだ」ですかね? 「例えば両親が殺人鬼に殺されて、でもその殺人鬼が警視総監の息子だったりしてスキャンダルだから握りつぶされた」 「あー、私にもっと強い声があれば両親の死はなかったことにならなかったのにー」とか。 看板は鏡でありレンズである。他人の注目という光を捻じ曲げ絡め集めれば・・・鉄をもとろかす熱となる。 「もしくは」生まれながらにこういう性質でこういうタチでした。 他人が右往左往するのが「好きです」 たかが小娘の「言葉で大勢が生き物のように」動くのがたまらない。 「終わってるのは」私の脳みそですああなんて スクイガタイ救われない生き物なんでしょう「許せませんね!」とか? そして看板の内容は虚構くうそうで構わない。 刺激的であればいい。それも正義を刺激できる代物なら最高だ。正義は人を最も熱くさせる。 無駄なんですよ「無為です」無意味なんです「無価値です」 私がどんな生まれをして「どんな育ちをしたか」とか関係ないでしょう? 「差別はよくない」ですよ?「ありのままの私を」見て判断してくださいよ!」 岩の間を清水が踊る。 清涼で清澄で神聖さすら感じられる空間を 適当で投槍で軽薄さすら感じられる虚構くうそうが凌辱する。 まずは自分を貶める。弱者の立場は何よりも強い盾となる。 そして相手を持ち上げる。強者の立場はこちらの矛を強くする。 タイマンだろうと関係ない。看板は鏡でありレンズである。 この試合を見ている視聴者の注目さえあればそれで必要十二分。 最早この岩盤は看板に成り果てた。 一人に対してこちらの軍は万か億かそれとも兆か、敵の勝機はそれ以下か。 悪意の言葉に対する対策は常に二つ。 こちらの話を聞いて静まらせるか、圧倒する暴力で静まらせるか。 つまり熱を奪うことでしかこちらを止める術はないのだ。熱を発生させた時点でこちらの攻撃は完了している。 相手は対策に追われるのみ―――― それを、このうんこは。 「クソわね。」 誹謗中傷で傷を与えるこちらの手口に対し、手に持つクソを投げつけることで対策としたのだ。 こちらの燃え上がる炎に対して文字通りクソをぶちまける行為。 何の文脈も何の因果もなく執拗にクソを投げつけてくる。 意味が分からない。ただ侮辱されてることだけは伝わってくる。 看板は乱立する。悪口は更に増える。画面の注目は目の前の女に降り注ぐ。 クソを投げつけられる。クソを投げつけられる。クソを投げつけられる。 熱はさらに上がる。鉄を溶かすどころではない。最早蒸発しかねないほどの勢いで正義の炎は燃えあがる。 言葉は要らない。アメリカ方式、フランス方式、イタリア・ナポリ方式、日本方式。 世界のどこにいても『クソを投げる』という行為は相手の侮辱なのだ。 喉が枯れるほどに罵倒する(なにをいっているのかすらもうわからない) 喉が枯れるほどに罵倒する(ただあの女がムカつくことだけはわかっている) 喉が枯れるほどに罵倒する(語彙力の限りを尽くして罵倒するこちらに対し、なんだあの女は) 喉が枯れる――――「ああっもう!!」 「なんなんですかアンタは!」 「やる気あるんですか!?こちらに対して挑発で返すとか正気ですか!?」 「それは悪手ですよ!こっちは更に燃え上がり炎上するだけ!」 「ここまで昂ぶった『リベリオン・プロパガンダ』は最早一介の魔人能力では止められない!」 「それでもまだあんたはクソを投げつけるつもりなんですか!」 たまりかねて疑問を発する。意味が分からないと。 どうせまたクソを投げつけるつもりか、それなら次こそそのクソをヤケクソにしてくれる――――!! そのような敵意を込めて放った言葉。 それを、この女は。 「気持ちいいでしょう?」 一言の元に切って捨ててのけた。 いつの間にか、看板が発する熱量は水を蒸らし。 まるで夏のように熱く暑く周囲を照らし出していた。 ――――己の『リベリオン・プロパガンダ』はここまでできるのか。ここまで、至ることができるのか。 ここまでの熱に至る事など、今までになかったと気付かされる。 「――――祭りですわ」 「祭りですよ。楽しみましょう?」 「そんなものですわ・・・・・・・・、暗黒祇園祭なんて」 こちらの全力の軽挙浮薄、罵詈雑言、相手の感情をかき乱すだけの虚構くうそうを前に、 「そうあれかし」と認めてのけた。 は、と声を出す。看板が震えていると思い横を見ると、看板を持っている己の手が震えていた。 投げつけられていたクソに紛れての、滝のような汗。 自分はどれだけの消耗をしていたのだ。ふと下を見れば膝も笑っている。 挑発に煽られてそれにノるというのは、やられるとこんなにも熱くなり――――気持ちの良い、ものだったのか。 ああ、しょうがない。 空っぽなことが自分だった。空っぽなことが自分の『魔人』だった。 それが、これだ。当たり前だと思っていたことに気が付かされてしまった。 今更だ。悪口うんこを出し切ったら空っぽになれて気持ちがいいなんて、当たり前のことに今更に気が付いてしまった。 だから、しょうがない。今の自分は空っぽに満足してしまっている。空っぽに満たされている。 気持ちよくなってしまったら・・・・負けだ。 ほら、こんな有り様なのに私の顔は笑顔になってしまっている。 ああ、でも。 本当にムカつきますね、このクソうんこ――――!!    ◆   ◆   ◆ 空也滝下仏堂 岩盤の間。 絶え間なく流れ続ける水により洗い流され臭気は消え、魔人同士の暴力にさらされ着ている黄金は見る影もなく。 だが、それでも。黒い髪に肢体しかなき人間にしか見えぬ体であってもなお。 ブリザベンド・ブッブリーは、どこまでも人間うんこであった。 「さてさて皆々様、今年の暗黒祇園祭はこれにて終了でございます。」 「ですが勘違いしてはいけませんよ?」 「あなた達の心に退屈を膿む心がある限り、第二第三の暗黒祇園祭があなた方の前に立ちふさがるでしょう」 「その時のあなた方は・・・はてさて魔人であるか人間のままか」 「次は是非、魔人としてこの場で会いまみえましょう」 「では、そのように」    ◆   ◆   ◆ この番組は、あなたの健康をサポートする 雲高草井株式会社、再糞館製薬所、ブリ痔ストンスポーツと ご覧のスポンサーの提供でお送りしました。