ひと目して遥かに
ふみ惑うに箒木に
その偶然を必然に
さあ戟笛は劇的に
――――故意に恋せよ乙女たち
【Intentionally fall in love】
『ヴィコーン』
何かが光る音が聞こえた。
ガラン・ザ・東福寺が誇る枯山水庭園が東庭――――
その東庭、北斗七星を司る雲文様(※めでたいことが起きる兆しとして現れる雲を文様化したもの。空を飛ばないものを指す)
にて眩く鈍く光るそうそれは例えるなら一筋の流れ星。
その流れ星の名前は、死兆星と言った。
不吉を冠するその星の輝きは、今宵の試合の激戦を予言していた――――
『片道切符の恋!』
?───z___!!!!
「降武理武法・吽子(うんこ)の構え!」
爆発音が、衝撃が鳴り走る。
『・・・ッ!片道切符の恋!!!!』
?───z___!!!!
「和式便器・足を地面に擦り付けてうんちを落とす運動!」
爆発音が、衝撃が鳴り走る。
『片道切符の恋ァアアアアアアアあああ!!!!!』
?───z___!!!!
「便・ザ・ブロックプルフラス・三匹の獣!」
爆発音が、衝撃が鳴り走る――――!!
「――――クソッ!!」
越前 ひろこはリングの中央にて構え直す。
足元に撃ち落とされたボールが転がってくる。
次弾の装填は十二分、何せさっきから衝撃をうけまくっている。
コーナーリングにて黄色い柱がそびえたつクソのように屹立している。
茶色い渦を巻いた帽子に茶色い渦を巻いたスカート、茶色い渦を巻いた日傘を持った黒髪黒目、純白の肌を持った御令嬢。
それが踏ん張っているような我慢しているような左右非対称の奇妙な表情をしながら屹立して――――
「何のつもりですかッ!!」
越前 ひろこはたまらずに叫んだ。叫ばずにはいられなかった。
己の放つ攻撃が悉く無手で撃ち落とされ、ご丁寧に投げ返される。
舐められている。見くびられている。馬鹿にされている。
そう思わずにはいられない。こちらを敵として見ていない、下に見ている。
まだ彼女は、こちらに視線すら向けていない・・・!!
「――――スジは、よろしいですわ」
瞬間、リングが便所に変わったかのように錯覚した。
辺り一面にうんこの臭いが漂う、仏の掌にキンモクセイの花が咲く。
彼女が喋る、それだけでガラン・ザ・東福寺の体が傾いた。
内部で念仏を唱える三万が仏僧のうちおよそ半数が今の臭気で気絶したがゆえに。
「ですが惜しい。その全身その全霊その全能力、あなたはまだ高みに至れるがそれに気が付かないでいる」
「あと少し、ほんのあと少し『つっつく』だけで更に強くなりますが――――さて」
人の形をしたうんこが、視線を、越前 ひろこに向ける。
その瞳は、まるで。うんこにたかるキイロショウジョウバエをみるかのような。
「暗黒祇園祭――――下々の遊戯、いわばお遊びです」
「遊びであるのならば、盛り上げなければなりませんわね?」
慈愛が肥溜めのごとく満ち溢れた瞳であった。
「――――ッ!!」
瞬間後ずさったのは気圧されたか本能か。
ドンッ!!
一瞬前に越前 ひろこがいた場所に重量音が鳴り響く。
黒光りするうんこが、リングに軋みを入れて落ちてきた。
誰が知ろう、この黄色き令嬢は。
今の一瞬で越前 ひろこの頭上に陣取り。
超重量の黒光りを排泄し。
そして再びコーナーポストに戻ってきたのだ。
「あなたの魔人能力は素晴らしい、下々の者にしては上々です」
ドンッ!!
落ちる、避ける。
「ですが悲しいかな魔人能力の常なるかな、その能力には年輪が足りない!」
ドンッ!!ドンッ!!
落ちる、落ちる、避ける、避ける。
「目覚めたばかりのよちよち歩き、まだオムツのとれぬ赤子の力!」
ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!
落ちる、落ちる、落ちる、落ちる、避ける、避ける、避ける、避ける。
「大声で泣いて叫ぶだけが己の力と誤解をしている!あなたは泣くために産まれたわけではないというのに!」
「叫びなさい!泣くためではなく!己の存在を!意志を!世界に知らしめるために!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!
堕ち、避け――――否、『死』
「四肢は動かず!未だその瞳は開かずとも!」
「『愛』は!あなたの前に開かれている!!」
――――空が漆黒に染まる。避けることは不可能。『片道切符の恋』では面の攻撃を防げない。
越 前 ひ ろ こ の め の ま え が ま っ く ら に な っ た ・ ・ ・ ・ ・ ・
◆ ◆ ◆
それは遠い記憶。
遥か過去、遠い未来。まだ可能性すらない世界。
そこに生きる人々の、全く違うのにどこか似ている私たちの風景。
それは『私』であり、それは『テニスラケット』であり、それは『兆蝶夫人』であり、それは――――
『彼』だった。
何も考えぬままに手を伸ばす。体ではない、魂に刻み込まれている。
これは前世か?来世か?並行世界か?そんなことはどうでもいい。
何度生まれ変わろうと。何がどうしようと。何がどうなろうとどうしようもなくなろうとも。
『私』はきっと、『彼』のことが好きになる。
越前 ひろこは決意で満たされた―――――
?o。+..:*?o。+..:*?o。+..:*?o。+..:*?o。+..:*?o。+..:*?o。+..:*?o。+..:*?o。+..:*?o。+..:*
目を覚ました時、見えたのは青い空。
「――――九相図(くそうず)を破りましたか」
Kく染まった空は最早昔、空は『?』の文字で満ち溢れている。
「泣く赤子が言葉をしゃべることを覚えた、というところですわね」
声をするところを見ると、そこにはガラン・ザ・東福寺『だったもの』が辺り一面に散らばっており。
「ですが留意しなさい。その領域はうんこが二千年前にすでに通過している大腸(ばしょ)・・・」
うんこのような彼女は変わらず、うんこの山に突きたったコーナーリングの上で悠然と佇んでいた。
「先は長いですわよ?その力、使いこなして見なさい」
慈愛が肥溜めのように溢れた瞳で、『追いついてこい』と言わんばかりに。
―――その時ブリザベント・ブッブリーの脳裏に浮かんでいたのは幼き頃の広い草原。
まだ横に、まだ共に。走り、追い、駆け回る相手がいた時代の風景であった。
一回戦 エキシビジョンマッチ
ブリザベント・ブッブリーVS越前 ひろこ
――――ブリザベント・ブッブリーWIN 決まり手:なし(越前 ひろこリングアウトによるなんか流れで負け)
◆ ◆ ◆
「シュッ!シュッ!シュッ!!」
ラケットを素振りする音が響く。
あの時に何をしたのか、彼女は覚えていない。能力がなにかなったと言う実感すら未だ沸かない。
初戦で一敗。兆蝶夫人に会う前に暗黒祇園祭の恐ろしさ、壁の高さを思う存分思い知らされた。
だが、そんなことはどうでもいい。
何度地に塗れようと。何がどうしようと。何がどうなろうとどうしようもなくなろうとも――――
『私』は絶対、『彼』のもとに辿り着く。
越前 ひろこは決意で満たされた。
氷の仮面に秘匿されるは原初の感情
青空の下で咲き、舞い上がれ恋の花
【Amour aller simple】